犬の椎間板ヘルニア(IVDD)の症状・原因とは?|なりやすい犬種と予防・治療法を解説

歩きたがらない、足を引きずる、足に力が入ってない感じがする、触るといつもとは違う鳴き方をする...などの症状があったら、椎間板ヘルニアのサインかもしれません。

本記事は一般的な医療情報です。急に立てない/歩けない/痛みが強い/排尿できないなどがある場合はすぐに動物病院を受診してください。
自宅での様子見や自己診断は危険です。何事も無ければそれに越したことはありません。

本記事はあくまでも一般的な医療情報として、まずはかかりつけの動物病院を受診しましょう。

注意:急に立てない、歩けない、激しい痛み、排尿ができない等は緊急事態です。自宅での様子見は避け、すぐに動物病院を受診してください。

椎間板ヘルニアとは

背骨の間にある椎間板(クッション)が変性して飛び出す・盛り上がることで脊髄を圧迫し、痛みや麻痺を起こす病気です。
発症様式は大きく2つに分けられます。

  • タイプI:若齢〜中齢で急に発症。椎間板の中心部が破綻して脊髄側へ飛び出す。短足・胴長の犬種に多い。
  • タイプII:加齢とともに徐々に進行。椎間板が硬くなり、脊髄側へ膨隆して圧迫する。中〜大型犬に多い。

椎間板ヘルニアを疑う症状

次のようなサインがあれば受診目安です(複数当てはまるほど緊急度が上がります)。

  • 背中や首の強い痛み(触ると悲鳴、動きたがらない、背中が丸い)
  • ふらつき・もつれ、段差を嫌がる、ジャンプできない
  • 後ろ足を引きずる/突然立てない
  • 排尿ができない・失禁(膀胱機能の障害)
  • 首のヘルニアでは前肢の痛み・麻痺、首を動かせないなど

重症度(グレード)と症状の違い

臨床現場でよく使われる1〜5の分類です。深部痛の有無が特に重要な指標になります。

  • グレード1:痛みのみ(歩行可)
  • グレード2:ふらつき・軽度の運動失調(歩行可)
  • グレード3:自力歩行不可(脚は動くが支えが必要)
  • グレード4:後肢麻痺+排尿困難深部痛は保たれる
  • グレード5:後肢麻痺+排尿困難+深部痛消失(最重症)

椎間板ヘルニアになりやすい犬種

体型や遺伝的素因でリスクが高まります。犬種名に限らず、胴長短足・背中が長い・軟骨の発育に特徴がある個体は要注意です。

若〜中齢で急に発症しやすいタイプ(タイプIが多い)

  • ダックスフンド(特にミニチュア)
  • ウェルシュ・コーギー(ペンブローク/カーディガン)
  • ペキニーズ
  • シーズー
  • ラサ・アプソ
  • ビーグル
  • フレンチ・ブルドッグ/パグ
  • アメリカン/イングリッシュ・コッカー・スパニエル
  • バセット・ハウンド
  • トイ/ミニチュア・プードル

加齢とともにじわじわ進行しやすいタイプ(タイプIIが多い)

  • ジャーマン・シェパード・ドッグ
  • ラブラドール・レトリバー
  • ゴールデン・レトリバー
  • ドーベルマン などの中〜大型犬

ミックス犬について

ミックス犬を迎える際は親犬の病歴(椎間板ヘルニア歴や歩様異常の有無)を確認し、太らせない習慣を最初から徹底してください。

上記の高リスク犬種の血が入ったミックス犬(例:ダックスMIX、コーギーMIX、ビーグルMIX、いわゆる“ダップー”など)も、
胴長短足の体型遺伝的素因が残っている場合は発症リスクが上がります

ただしミックス=必ず発症ではありません。体重管理・床の滑り止め・段差回避・ジャンプ禁止といった生活管理でリスクを下げることができます。

受診までの緊急対応

椎間板ヘルニアが疑われる場合で、すぐに病院に受信できない時は、以下の対応を心がけましょう。
痛みで食欲が無くなる場合もあります。普段のごはんを食べない時は、おやつなど食いつきのいいものをあげて見守ってあげましょう。

  • とにかくクレートなどの中で安静に。動きが最小限になるようにしてください。
  • 抱き上げるときは胸と後躯を同時に支える
  • 階段・ジャンプ・激しい動きを完全に禁止してください。

NG行為

  • 自己流のマッサージや背骨の矯正
  • 人間用の鎮痛薬の投与、複数の薬の独断併用(特にNSAIDsとステロイドの同時使用)
  • 「様子を見る」を長引かせること(疑いがある場合はすぐに動物病院を受診)
  • 脇を抱えて持ち上げる行為。腰が伸びると負担がかかります。

診断方法

  1. 神経学的検査
     どの部位に障害があるかを推定(首/胸腰/腰仙)。深部痛の有無を確認。
  2. 画像検査
     - レントゲン:確定は困難。主に他疾患の除外に使用。
    • MRI:第一選択。脊髄と椎間板の状態を直接評価し、治療方針の決定に有用。
    • CT/ミエログラフィー:MRIが難しい場合の代替・補助。
  3. 血液・尿検査
     麻酔前評価や併発疾患の確認。

どのような診断方法を行うかは、かかりつけの動物病院の指示に従ってください。
グレード1~2の歩行可能な場合は、MRIを撮らずに内科治療で様子を見る場合が多いです。

治療方法

保存療法(内科治療)

対象:痛みのみ〜軽度の神経症状(主にグレード1〜2)

  • 厳格な安静(クレートレスト)4〜6週間
  • 消炎鎮痛薬(NSAIDsまたはステロイドのいずれか一方)、鎮痛補助薬、筋弛緩薬
  • 必要に応じて膀胱管理、リハビリテーション(痛み管理、可動域訓練 など)
  • 改善する例は多いが、再発率が高め(目安30〜40%)。再発を繰り返す場合は外科を検討。

外科療法

対象:歩行困難〜麻痺、排尿障害がある場合、保存療法で悪化・再発する場合

  • 圧迫部位の骨を一部削り、脊髄の圧迫を解除(胸腰:片側椎弓切除、頸部:ベントラルスロット など)
  • 深部痛がある症例は回復率が高い(おおむね90%前後)深部痛消失例は回復率が下がるため、早期手術が重要。
  • 術後は疼痛管理・安静・リハビリを計画的に実施。

術後/保存後のケア

  • 安静期間の遵守(目安4週間)
  • リハビリ:歩行補助、関節可動域訓練、水中トレッドミルなど
  • 膀胱ケア:自力排尿が難しい場合は圧迫排尿を指導のもとで実施、尿路感染や皮膚炎を予防
  • 便秘・食欲低下・薬の副作用などがあればすぐに報告

予後の目安

  • 深部痛あり:外科で高い回復率。保存でも改善が期待できる。
  • 深部痛なし:予後は不良。時間経過とともに回復率が低下するため、迅速な判断が必要。

再発予防と生活の整え方

  • 体重管理:太らせない(週1回の定期計量)
  • 床対策:滑り止めマットを敷く
  • 段差対策:ソファ前にステップ、階段はゲートで封鎖
  • 散歩ハーネスを使用(首輪の強い牽引は避ける)
  • 遊び:ジャンプや高所の上り下りは避け、地上でのノーズワークやトリック練習に切り替える
  • 早めの受診:軽い痛みや歩き方の変化でも早期に相談

まとめ

椎間板ヘルニアは時間との勝負です。痛みだけに見える段階でも、安静を徹底し、速やかに受診してください。歩けるか、深部痛があるかが重要な分岐点です。適切な診断と治療、そして日常の体重・環境管理で、回復と再発予防の可能性は大きく高まります。

余談ですが、筆者の愛犬(チワワ×ペキニーズ)のミックス犬(4歳)も椎間板ヘルニアになったことがあります。うちの愛犬は信じられないくらいの胴長短足です。

そんな愛犬が、本当にある日突然元気がなくなり、歩くとヨタヨタと力がなく、足の踏ん張りが利かない状態になりました。
すぐに動物病院に連れて行き、幸いなことに自力歩行は可能だったので、内科治療で絶対安静の生活がはじまりました。

自宅のフローリング箇所すべてにフロアマットを敷き、少し高さのあったソファーの脚を外し、段差にはステップを用意し、低空生活を徹底しました。
愛犬はしつこいくらいに遊ぶのが大好きな犬なので、クレートレスト徹底の安静生活は心苦しいものがありました。しかし、今後の彼のためにも心を鬼にして見守りました。

毎週動物病院に通い、経過観察をし、そして4週間~5週間程度で足のふらつきがなくなり、お薬も一旦ストップしました。
今でも低空生活は続けていますが、愛犬はすっかり元気になり、家中を走り回っています。(まじで心配が勝つからやめてくれ....)

椎間板ヘルニアは完治しにくい病気と言われていますが、グレードによってはまた走り回れるようになることも可能です。
「あれ?なんかおかしい?」と思ったら迷わずに早期に動物病院を受診してください。